2023年のOOH 5つのキーワードから広告のトレンドを予測

 OOHとは、「Out of Home Media」の略で、看板、屋外広告、交通広告など、家の外で体験できる広告。日常生活の中でメッセージを繰り返し訴求することが得意なメディアで、強制視認性を持ち、街の景観をつくる構成要素でもあります。
 一方で課題としているのは、新たな活用方法。例えばライフスタイルの変化により、人々は外出先でもスマートフォンに目を落とし、「従来のOOHとしての価値」に疑問の声もあります。

 これからのOOHはどうなるのでしょうか。2022年の掲出事例を振り返りながら、2023年最新の事例も追いかけます。注目の5つのキーワードを紹介しながらトレンドを紐解いていきます!

▼INDEX
①「大型ビジョン」で3D広告などが話題化
②「広告クリエイティブ表現」の工夫、出稿業種の変化に注目
③リアルとオンラインの垣根を超える「イベント型広告」
④根強い人気の「広告ジャック」
⑤「SDGs」、「DX」時代を反映する広告
まとめ

 


 

 

①大型ビジョン」で3D広告などが話題化

話題を呼ぶ〝肉眼3D広告〟
「新宿の三毛猫」の登場を皮切りに、一昨年から話題を呼んでいる肉眼3D広告。今年は単純な「はやり」からの脱却とともに、かわいいキャラクターが地域に根差しランドマーク化したり、複数媒体を使ったりなど新しい役割や表現技法の誕生が期待されます。海外のようなダイナミックなクリエイティブも見てみたいところです。
海外に目を向けると、タイムズスクエアのビジョンは数時間単位で枠を買うことができます。広告主は長期間出稿するより一度放映して「タイムズスクエアで流した」と実績をつくりSNSにアップすることを重視しているようですね。

●新宿の三毛猫に続き渋谷に3Dの秋田犬が登場しました。ヒットは渋谷駅前エリアで秋田犬3Dカラクリ時計動画を放映


●ホラー要素やスピード感あるクリエイティブと相性抜群。クロス新宿ビジョンに「Dead by Daylightモバイル」の3D広告。サバイバーを担いだキラーがこちらに迫ってきます

●映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の事例。ニューヨークのタイムズスクエアで、複数のビジョンをジャックした3D動画広告を放映

横長の媒体を生かしたクリエイティブ
目線と同じ高さで横長に展開される媒体の需要も高まっています。例えば新宿ウォール456はW45.6mの媒体。毎週チェックしていると、この媒体専用のクリエイティブを展開する広告主も多いようです。ほか、渋谷ビッグサイネージプレミアム(全長約25m)や、渋谷道玄坂ハッピーボード(約22m×2面)などの横長のアナログ媒体も広告出稿がほぼ途切れないように見受けられます。屋内だと天井高に制限があり、屋外だと工作物確認が必要など、高さを出すことには色々と制約ありますが、横長の場合は縦長より制限が少なく迫力が出しやすいことも理由の一つだと考えられます。

●野球ゲーム「MLB The Show 22」が新宿ウォール456をジャック。大谷翔平選手の“投打走”を実際のスピードで疑似体験できるモーショングラフィック映像を放映

●アナログ媒体も横に寝転ぶなどの表現を取り入れています。約6.5mの「横たわる羊の執事」、「BOSS」、「うるおリッチ」、「アクアレーベル」の広告

 


 

 

②広告クリエイティブ表現の工夫、出稿業種の変化に注目

規制、条例と上手く付き合った表現を
屋外広告には自治体による条例が、駅構内などに掲出する交通広告には電鉄によるルールがあります。安全や公共の場にふさわしい景観づくりなどのための規制ですが、この規制と上手く付き合った広告表現&広告規制を逆手に取った面白いクリエイティブにも期待されます。
またSNS社会では、その場にいない人にもOOHの情報を届けられるという利点もありますが、性的な表現等で炎上してしまうというケースも見られます。

●大阪にあるザ・ファブルの広告。広告規制のため、主人公が銃器ではなくサンマを持たされています

●鬼滅の刃は電鉄によってはエフェクトをかけて露出を抑えています

●ドラマ「ナンバMG5」のアドピラー広告。キャラのイラストより演者さんの方が胸元の露出が控えめになっています

●話題になった黒い山手線。Netflixの広告はロゴだけで、車体のラッピングは鉄道開業150周年を記念したJR東日本の施策のため、屋外広告物条例規定もOKなのだそうです

出稿可能業種の幅が拡大
これまでOOHでは見ることのできなかった業種の広告が規制緩和により増えてきました。例えば2021年夏ごろから、マッチングアプリの広告をよく見るようになってきました。クリエイティブも他企業とコラボして掛け合ったコピーを採用したり、「ご縁」と「5円」を掛けたピールオフ、露骨な表現は避けたりなど、アイデアで目を引く工夫がされているようです。

●渋谷センター街のNetflixとTinderの、まるで煽りあっている!?屋外広告。その後和解する内容も掲出されました

●新宿駅メトロプロムナードの、マッチングアプリ「Pairs」によるピールオフ広告。お年玉ならぬ「お恋玉」を配布。デート資金のPayPayポイント2000円or5円(ご縁)分が当たるギフトカードが封入されていました

●渋谷の駅に近い看板にあるハッピーメールやセクシー女優を起用したアダルトビデオメーカー・SODの広告。クリエイティブは「ハ!?」の文字や女優の顔写真で、詳しくサービスを語らない内容になっています

 


 

 

③リアルとオンラインの垣根を超える「イベント型広告」

付箋やピールオフ広告
サイン業界の景況感を見ると、イベント・催事需要の回復に伴い、新しい広告、サインを掲出する機会が増加したという企業もありました。広告でもピールオフ広告やイベント型広告に復活の兆しが見えます。また、特殊印刷技術を用いた、見る角度やフラッシュ撮影で異なる絵が出現する広告で、現地に足を運ばせる仕掛けも。俳優と相合傘ができるデザインなどで広告をフォトスポット化し、SNSで拡散を狙う事例もありました。

●ファン団体の出稿は増えてきましたが、公式が出すのは珍しい「付箋広告」。池袋駅にあった映画『今夜、世界からこの恋が消えても』の広告。道枝駿佑さんの誕生日をお祝いしました

●応援広告を通じてファン団体からアーティストへのレスポンスをすることも。JO1木全翔也さんの誕生日広告は47都道府県で展開したJO1公式の広告へのレスポンスとして、同じく全国に広告を掲出

●新宿駅メトロプロムナードでは、「KINCHO サッサ」が出稿。サッサの実物を配布するピールオフで、剥がすと「SOS」の文字が出現

●表参道駅にある、ハロウィンがテーマのあんさんぶるスターズ!!の広告。絵画をフラッシュ撮影すると、ハロウィン仕立てに仮装したキャラが出現

●高橋一生さんと相合傘ができる広告でフォトスポット化

配信者参加型広告
ライブストリーミングサービスなどが、配信者に「OOHに載る権利を獲得」できるイベントなどを企画するといった参加型の広告も目立ちます。街中に大きく展開されるOOHは、掲載されたインフルエンサー当事者たち等によって拡散が見込めます。

●「17LIVE」の広告。「渋谷超巨大看板掲載権争奪戦!イベント」 の看板で、沢山のライバーさんたちの写真が載っています

●『REALITY4周年特大モザイクアート掲載イベント』広告

●「ツイキャス」が「明日、私は誰かのカノジョ」とコラボした広告。ご本人やファンが「見てきた」というツイートも

 


 

 

④根強い人気の「広告ジャック」

エリアジャックや全国ジャック
渋谷駅周辺の13面ビジョンジャックなどのジャック展開は、海外の企業にも高い需要があります。また、全国の都市などに掲出する場合地方にも水平展開が可能になります。人気媒体に出稿が一極化し受注の取りこぼしを防ぐため、媒体社や広告代理店には他の媒体、プランの開発、提案力が求められます。
また、アーティストやアイドルグループなどの全国のファンが考えたり、協力したりする「謎解き&仕掛け」がある広告とも相性がいいのが特長。ファンの団結力により、難解な問題も拡散され、速やかに謎が解かれています。

●JA共済×JO1交通安全キャンペーンの広告。全国11駅に展開し、掲出されている読み札&取り札のグラフィックが各駅で異なっていました

●音楽事務所「BMSG」が渋谷を大規模ジャック。書かれているハッシュタグで行う謎解きがありました

●Sexy Zoneの広告、梅田・名古屋・渋谷・福岡・札幌のポスターに隠れている文字を組み合わせると……

未だにニーズの高い「周年記念広告」
以前からある手法でOOHに限りませんが、企業やアーティストなどの周年記念広告は高い需要があり、広告展開が大規模になるケースも。最近はスマートフォンアプリの広告も目立ちます。OOHに対し、広告主はリリースを打つような感覚で話題化を狙うといった使い方を求めているので、その点アニバーサリー広告は相性が良いと思われます。

●東武東上線成増駅が「なりもす駅」に。モスバーガーが50周年記念で、1号店のある成増駅とコラボ。ホームと南口の駅名看板のほか、池袋駅にもフラッグを掲出

●3周年を迎えたアプリゲーム「魔法使いの約束」のシート広告。特別列車も運行しました

●「ヒプノシスマイク」5周年記念で、新宿ウォール456と対向の柱サイネージをジャックしました

 


 

 

⑤「SDGs」、「DX」時代を反映する広告

SDGs・環境配慮型広告
広告出稿者に聞いた2022年広告業界注目キーワードとして「SDGs」は上期1位、下期2位にランクインしています(※)。一口に「SDGs」と言っても環境配慮型メディアを使用したり、広告デザインに反映したり、と様々。企業ブランディングも含め今後の展開が注目されます。

●「明治おいしい牛乳」の広告。紙パックのリサイクルを“転職”に例え、この広告自体が約200本分の紙パックからできています

●「CHANEL happy mother’s day」の広告。タンボールや紙などに手書きの文字を書き、人気コスメを再現したものを身に着けた人々。あえて無造作なデザインで、リサイクル素材を想起させます

●ピーターラビット120周年の広告。捨てられるはずだったにんじんやキャベツ、みかんなどを再利用して作られた紙を使用しています

新しい技術、手法を取り入れた広告
広告業界もDX時代。例えばAR技術を使ったOOH広告は、数年前は年に数件見かける規模感で、体験するにもアプリをダウンロードして行うことが心理的ハードルになる場合もありました。最近は多い月で複数件出稿、カメラでQRコードを読み込むと画像が飛び出すなど、手軽にできるものが見られるようになりました。ただし写真撮影の際の操作が難しいこともあるので、もっとシームレスに体験できればさらなる拡散効果が期待できるでしょう。

●ららぽーとで「HOT JAPAN with JO1」のコラボ。館内限定のARでメンバーと写真撮影ができました

●上野駅のクリスマスツリーにあったQRコードを読み込むと音楽が流れプレゼントを積んだ電車に乗ったARサンタパンダが登場

※㈱LIVE BOARD広告出稿者に聞いた!2022年広告業界注目キーワード、上・下半期別ランキングより

 


 

 

まとめ

 いずれ肉眼3D広告は流行りものではなくなり、クリエイティブ力やランドマーク化することが期待されます。
 SNS時代のOOH、よりクリエイティブに気を遣うことが大切。拡散されるような工夫や、炎上リスクも考えた表現、掲出方法を検討するべきでしょう。
 資金力がある企業などからは、大型ビジョンを複数使ったジャック展開が依然として人気。一方これに手が出ないという企業からは、それよりは手軽にできるエリア一帯をポスター貼りするジャックも人気です。
 応援広告やSDGsは、用途や解釈の幅が広がってきました。今後も市場規模の拡大に期待です。クラウドファンディングなどで資金調達やファン同士がつながり、熱量を高めていく例もあるようです。
 新型コロナ感染症拡大状況次第ですが、リアルイベントなどとインターネット媒体の垣根を超えた広告展開に期待。オンラインでも楽しめるかつリアルに足を運びたくなる仕掛けが望まれます。
 そして広告業界関連企業には、こうした広告や世情に対する感度を高めていくことと、顧客に最適な提案をする力が求められています。


お知らせ

 新聞「総合報道」1月5日号ではOOHの今後を予測。肉眼3D広告をはじめとする潮流や、諸課題をまとめています。また、若手座談会も掲載。OOHのさらなる活性化のために必要なことや展望などを、日々実務に携わるプロフェッショナルの皆さんに語ってもらいました。よろしければ併せてご覧ください。

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